新しい治療法

乳がんの臨床試験

乳がん治療に関して、現時点では標準治療にはなっていない新しい治療法が開発されています。
これらの新しい治療法は、一部の医療施設ですでに行われ、臨床試験*治験* *により、効果や副作用を確認している段階です。

*臨床試験
よりよい「標準治療」を目指し、厚生労働省の基準に基づき3段階に分けて行われる臨床研究。これまで厚生労働省で承認された薬、治療法や診断法を用い、最良の治療法や診断法、薬のよりよい組み合わせの確立を目的とする。

**治験
臨床試験の中でも、厚生労働省から新たに医薬品・医療機器等としての承認を得る目的で、製薬会社や医師が行う試験を「治験」という。

臨床試験や治験に参加できるかどうかについては、主治医の判断が必要です。
臨床試験や治験は、安全性を確保するために、体調に余裕のある方を参加の対象としています。

臨床試験のメリットとデメリット

開発中の治療法は、患者さんに思わぬ副作用を引き起こすことがあるかもしれません。あるいは、残念ながら思ったほどの効果がみられないこともあります。また、同じ治療を受けても効果がある方とそうでない方がいます。
新しい治療法を受けられる可能性がある一方で、不利益を被る可能性があることも十分に理解しておく必要があります。臨床試験を希望する場合は、専門家から十分な説明を受け、メリットやデメリットを十分に納得した上で参加しましょう。
参加同意書にサインし、治療が始まった後でも、いつでも治療をやめることができます。臨床試験によっては、検査や試験薬に対する費用がかからないものもあります。その場合も、試験期間中にかかる保険診療の部分(試験薬以外の点滴など)については患者負担となります。

乳がんの新しい治療法

以下の治療は、現時点では標準治療ではありません。
内視鏡手術は保険診療で、その他の治療法は、臨床試験や自費診療で行われています。

凍結療法

がん細胞を凍らせて、死滅させる方法。
超音波のモニターで確認しながら、がん細胞に針を刺してガスや液体窒素を送って凍らせます。
乳房を切除せずにすみ、傷も針の穴だけ。体への負担が小さいので、外来での治療も可能です。
この治療を行った結果、長期間にわたって局所の再発が起こらないかどうかの確認試験が行われています。

免疫療法

白血球の中にあるT細胞にはがんを排除する働きがありますが、T細胞が弱まったり、がん細胞がT細胞にブレーキをかけたりすると、免疫ががんを排除できなくなります。そこで、がん細胞によるブレーキをブロックする「免疫チェックポイント阻害薬」の開発が進んでいます。
これとは逆に、免疫細胞自身の働きを高める治療法の研究も進められています。

ラジオ波熱凝固療法(RFA)

超音波のモニターで確認しながら、針にラジオ波(高周波の電磁波)を流して、熱でがん細胞を焼き切る方法。
乳房に傷がつかず。治療も短時間ですみます。ただし、しこりが大きい場合は、熱が十分に伝わらず焼き切ることができません。そのため、局所再発が高いことが問題視されています。

陽子線・重粒子線治療

放射線療法の一種で、通常使うX線に代えて、陽子線・重粒子線を照射します。
陽子線は水素の原子核(陽子)を加速してエネルギーを高めてできる放射線。重粒子線は、陽子の12倍の重さをもつ炭素の原子核を、光速の約70%まで加速したものです。X線が体の奥へ進むほど線量が減少するという性質を持っているのに対し、重粒子線や陽子線は、体の中のある深さにおいて急激に線量が増加する性質があります。そのため深部にあるがん細胞にも効果があり、正常な細胞へのダメージを小さく抑えることができます。

照射の回数が少なくすみ、治療期間が短いのもメリットです。ただ、照射には高い技術と大掛かりな装置が必要なため、治療を行える施設が限られており、乳がんの初期治療における役割が確認されているところです。

内視鏡手術(鏡視下手術)

内視鏡を使用することにより、皮膚を切開する長さや位置を変えることができるため、形の良い乳房を残すことができます。
現在、保険診療として行うことができますが、乳房温存手術の場合はもともと切除範囲がそれほど大きくないこと、通常の手術に比べて時間がかかることなどから、普及には至っていません。

また、内視鏡手術で確実にリンパ節郭清ができるか、長期的に見て再発の危険性がないかなどのデータがまだ不足しています。
これらの安全性の確認と同時に、切除した乳腺欠損部を修復する方法や、使用機器の開発、手術方法の標準化などを図ることで、今後、乳がん手術のひとつの選択肢として普及することが期待されます。

 

監修:土井 卓子(医療法人湘和会 湘南記念病院 乳がんセンター長)