主治医としっかり相談しましょう

どのような治療法を、どのタイミングで行っていくかは、乳がんのステージやサブタイプなどに加え、しこりの数や位置、がんの種類、悪性度などの要素によって判断されます。この選択の基準となるのが「標準治療」と言われるものです。

まず、自分のがんの状態を知り、治療の選択肢と、それぞれのメリットとデメリットをしっかり確認しましょう。
そのうえで、家族や仕事、趣味やライフスタイルへのこだわり、治療に必要な期間や時間、費用なども含め、自分が優先したいものは何かを考え、主治医に希望を伝えて十分に話し合い、納得した治療を選択していきましょう。

主治医の説明に納得がいかないときは、看護師や、かかっている医療機関の相談窓口、医療ソーシャルワーカーなどの相談員、または、がん診療連携拠点病院の相談支援センターに相談することができます。

乳がん治療の流れ

※非浸潤がん:乳管内に乳がんがとどまっている初期段階のがん
※浸潤がん:乳がん細胞が乳管を破り、周囲の組織まで及んだがん

出典:「ピンクリボンと乳がん まなびBOOK」改訂版

 

標準治療(standard therapy)とは

大規模な臨床試験の結果を検討し、科学的な根拠(エビデンス)に基づいて、現時点で最も効果が上がる治療法として推奨される治療法のこと。「平均的」「ふつう」という意味ではなく、現在利用できる最善、最良で、確実な効果が期待できる治療のことです。
一方、先進医療とは、まだ保険診療の対象には至っていない高度な医療技術のことで、実施できる医療機関が限定され、全額自己負担となっています。
このような先進医療が、今後、効果や安全性などの観点から、これまでの標準治療より優れていることが証明され、評価されると、新たな「標準治療」となります。

乳がんの病期(ステージ)

乳がんの病期(ステージ)は、
●がんが乳房の中でどこまで広がっているか
●リンパ節転移があるか
●骨や肺など乳房から離れた臓器への転移があるか

などによって決まります。

 病期しこりの大きさ転移の状況
 病期0   非湿潤がん(乳管内に乳がんがとどまっている初期段階のがん)  
 病期Ⅰ しこり 2㎝以下 リンパ節転移なし
病期Ⅱ A しこり 2㎝以下 腋窩(えきか)リンパ節に転移あり
  しこり 2.1~5㎝ リンパ節転移なし
B しこり 2.1~5㎝ 腋窩(えきか)リンパ節に転移あり
  しこり 5.1㎝以上 リンパ節転移なし
病期Ⅲ A しこり 5.1㎝以上 腋窩(えきか)リンパ節に転移あり
しこりの大きさを問わず 腋窩(えきか)リンパ節に転移あり
または、内胸リンパ節に転移がある
B 皮膚や胸壁に湿潤がある
C 腋窩(えきか)リンパ節や鎖骨上リンパ節に転移あり
または内胸リンパ節と腋窩
(えきか)リンパ節の両方に転移あり
 病期Ⅳ しこりの大きさを問わず 他の臓器への転移あり

出典:臨床・病理 乳癌取扱い規約第18版(2018)金原出版より作成

 

乳がんの病期(ステージ)と治療の選択

(1)0期

乳房部分切除術(乳房温存手術)または乳房全切除術を行い、がんの状態によってはセンチネルリンパ節生検が行われます。乳房部分切除術を行う場合は、手術後の放射線治療が必要になります。

(2)I〜IIIA期

乳房部分切除術または乳房全切除術を行います。乳房部分切除術後には放射線治療を行います。
また、乳房全切除術後にも必要となることがあります。
がんが大きい場合は、手術の前にホルモン療法や化学療法(抗がん薬治療)などの薬物療法でがんを小さくしてから手術を行うことがあります。
リンパ節への転移がある場合には、リンパ節郭清(かくせい)(リンパ節を切除する手術)が行われます。
さらに、手術で切除した組織を使ってがんの広がりや性質なども調べ、必要に応じて薬物療法を行います。

3)IIIB〜IV期

主に薬物療法を行います。がんの状態によっては手術や放射線治療を追加する可能性があります。

乳がんの病期(ステージ)と治療の選択

出典:国立がん研究センター がん情報サービス

乳がんの「サブタイプ」

乳がんの分類には、病期(ステージ)分類に加え、がん細胞の特徴によるサブタイプ分類があります。
サブタイプ分類は、薬物療法を行う際にどの薬が適しているかを選ぶ参考にするためのものです。
一般に、手術や針生検などで得られた乳がん組織の病理検査により、
がん増殖にかかわるホルモン受容体やHER2(ハーツ―)などの発現状況の組み合わせにより、
「ルミナールA」「ルミナールB」「HER2」「トリプルネガティブ」の4つのサブタイプに分類されます。

ルミナールとはホルモン受容体陽性のことで、「ルミナール」であればホルモン療法の効果が期待できます。
ルミナールAはホルモン療法単独での効果が期待されるタイプ、ルミナールBは化学療法も併用することを考えたほうがよいタイプです。
トリプルネガティブは、現在のところは化学療法(抗がん薬治療)しか有効ではないタイプですが、最近では、このタイプの新たな治療法が研究されています。

このような分類はあくまで便宜的なものであり、また、本来の遺伝子検査(※)によるものではありません。
分類基準が厳密には決まっていないため、混乱をきたしやすいという問題もあります。
実際の治療方針は、サブタイプ分類に限らず、さまざまな情報を組み合わせて決定されます。

(※)がん遺伝子パネル検査
次世代シークエンサーと呼ばれる装置で数10から数100個の遺伝子変異を一度に解析することで、がんの特徴を知り、ひとりひとりに適した治療法を検討します。
令和元年から、全国のがんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院では保険診療として 「 がん遺伝子パネル検査 」 を受けられるようになりました 。
検査をご希望される場合、または検査について詳しいことをお聞きになりたい場合は、まずはかかりつけの主治医にご相談ください 。この検査では、遺伝性のがん 血縁の方のがんの発生に関わる可能性のある遺伝子変異が見つかる可能性があります。検査を受けるかどうかは、ご家族の方ともご相談ください 。

 

監修:土井卓子(医療法人湘和会 湘南記念病院 乳がんセンター長)