ホルモン療法
ホルモン療法の方法
乳がんの約70%は女性ホルモンであるエストロゲンの刺激によって増殖します。
そこで、さまざまな方法でエストロゲンをブロックするホルモン療法の効果が期待できます。卵巣からのエストロゲンの分泌量は40代から急激に減少し、閉経後はほとんどゼロとなりますが、副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)が脂肪組織などから分泌されるアロマターゼという酵素の働きによってエストロゲンに作り替えられます。
このように閉経前と閉経後ではエストロゲンがつくられる仕組みが大きく異なるため、ホルモン療法で使用される薬剤も、閉経前と閉経後で変わります。
出典:兵庫県立がんセンター発行「薬剤部だより」No14
閉経前のホルモン療法(再発予防)
閉経前の場合は、卵巣からのエストロゲンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト製剤とエストロゲンががん細胞と結合するのを阻害する抗エストロゲン剤を使用します。
一般的には抗エストロゲン剤を5~10年間服用します。
再発リスクが高い場合はLH-RHアゴニスト製剤の皮下注射を併用します。
効果の持続が1か月、3か月、6か月のものがあり、値段も異なるので、通院の都合に合わせて選択します。
閉経後のホルモン療法(再発予防)
閉経後の場合は、アンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲンに変える酵素、アロマターゼの働きを抑えるアロマターゼ阻害剤が治療に使われます。一般的には5~7年間服用します。
閉経前から閉経後にまたがるホルモン治療(再発予防)
閉経前で、長期間にわたる抗エストロゲン剤服用中に閉経を迎えた場合は、抗エストロゲン剤からアロマターゼ阻害剤に変更することがあります。
閉経後の再発治療としてのホルモン療法
閉経後の人で、ホルモン療法後に乳がんが再発した場合は、再発前と違うタイプのアロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン作用とエストロゲン受容体を分解する作用を併せ持つフルベストラントが使用できます。さらにCDK4/6阻害剤、mTOR阻害剤といった新しい薬が使用できるようになり、症状に合わせて選択します。
閉経かどうかの目安は?
一般的には、45歳以上で1年間まったく月経がない場合、閉経と判断します。ただし、乳がんの治療にあたって重要なのは、月経の有無よりも卵巣からのエストロゲンの分泌です。子宮を切除している場合、月経はなくても、卵巣が片方でも残っていれば、閉経前と同様にエストロゲンが分泌されている可能性があります。血液中のエストロゲンやFSH(卵胞刺激ホルモン)の量を測定して判断します。
ホルモン療法薬の副作用
ホルモン療法は、化学療法(抗がん薬治療)に比べると副作用が少ないのが特徴です。
ただ、ホルモン療法薬の働きでホルモンバランスが崩れるために、ほてりやのぼせ、発汗などの更年期症状が現れることもあります。こうした症状は、年齢や体調によって異なり、体が慣れるに従って収まりますし、食生活の見直しや運動、生活のリズムを整えることなどで軽くすることもできます。LH-RHアゴニスト製剤でうつになるような場合は、主治医に相談してみましょう。
アロマターゼ阻害剤は、抗エストロゲン剤に比べ、関節痛や手のこわばりがよく起こります。動かし始めが痛いのですが、運動やマッサージ、鎮痛剤などで対処すれば、次第に軽快します。長期間のアロマターゼ阻害剤の使用で、骨密度が低下することもあります。
年に1度は骨密度検査を受け、骨密度が低くなっている場合は、対応薬を使います。
また、抗エストロゲン剤のタモキシフェンで子宮内膜が肥厚することがあります。必要以上に心配する必要はありませんが、子宮体がんのリスクとなることもあるので、服用中は年に1度は婦人科健診を受けましょう。
監修:土井 卓子(医療法人湘和会 湘南記念病院 乳がんセンター長)