乳房温存手術(乳房部分切除術)
乳房温存手術(乳房部分切除術)は、がん細胞とその周辺の組織を1~2㎝広めに切除し、乳房全体を切り取らずに済む手術です。通常、術後放射線治療と組み合わせて行います。

画像提供:認定NPO法人乳房健康研究会
乳房温存手術が適応となるのは、
●がんの広がりが3~4㎝以下
●ステージが0期~ⅡA期
●多発性のがんではない
などの項目に当てはまる場合です。
また、遺伝性乳がんの場合には 、 温存後の再発リスクが高くなるため 、主治医との話し合いが大切になります。
形の良い乳房を残すことができるか、本人が乳房を残すことを望んでいるかどうかも大切なポイントとなります。さらに、術後の放射線治療を行うことが基本となるので、妊娠中など放射線治療が受けられない場合は、原則として、乳房全体を切り取る乳房切除術が行われます。
逆に、乳房の温存が難しい場合でも、術前の化学療法(抗がん薬治療)でがんが小さくなると、乳房温存手術が可能になる場合があります。しこりが小さくても、乳管内の広がりが大きい場合や、しこりがたくさんある場合には、抗がん薬の効果があっても切除範囲は小さくならないので、乳房温存には向いていません。
手術中に、乳腺の切除部分の切り口である断端にがん細胞が残っている「断端陽性」と診断された場合は、追加切除が行われたり、場合によっては乳房全摘に変更されることがあります。
乳房温存手術が適応になるケース
- 形の良い乳房を残すことができる場合(乳房の大きさとしこりの大きさ、しこりの位置などから決定)
- 術前化学療法(抗がん薬治療)が行われて、形の良い乳房が残せるまでしこりが小さくなった場合
- しこりが多発していない場合
- 手術後に放射線治療が受けられる
- 本人が希望している場合
※遺伝性乳がん( BRCA1/ 2遺伝子変異)の場合には乳房内再発リスクが高くなるため、乳房温存手術は積極的には勧められません。
温存手術の前に確認しておきたいこと
乳房を温存する場合、がん細胞を切除するだけでなく、手術の痕を目立たなくすることや、乳房の形をできるだけ保つことも重要です。そのために、乳房の側面や下、乳輪の色の変わり目に沿って皮膚を切開するなど、手術の痕が目立たない場所や方法を医師によく確認して選びます。
手術の前に、どこを切開して、どのようにふくらみを維持できるのか、手術の痕の大きさや目立ち方などを医師によく確認し、ご自身の希望を伝えることが重要です。
乳がんの組織型

組織型とは、がんの組織の構造や、がん細胞の特徴、がんの広がり方の特徴によって乳がんを分類したもので、「非浸潤がん」と「浸潤がん」に大別されます。
| 非浸潤がん | 非浸潤がんは、乳がんが乳管や小葉の中にとどまっている、初期段階のがんです。その部分を乳房部分切除術または乳房切除術で切除すれば、リンパ節や他の臓器への転移の心配は非常に少ないです。 |
|---|---|
| 浸潤がん | 浸潤がんは、乳がん細胞が乳管を破り、周囲の組織にまで及んだがんです。浸潤がんでは転移の可能性が出てくるため、多くの場合、手術だけではなく、全身療法が必要になります。 |
乳房温存手術の術後
手術で切除した組織は病理検査で詳しく調べられ、その結果が手術後の治療方針を決めるのに役立つ情報となります。
病理検査では、乳がんの組織型、サブタイプ、がんの大きさ、リンパ節への転移の有無や個数、がんが取り切れているかどうかを調べます。術後化学療法(抗がん薬治療)が行われない場合には、手術後2か月以内を目安に放射線治療が始められます。
放射線治療に加えて全身薬物療法が必要な場合は、がんの組織のサブタイプやリンパ節転移、がん周囲のがん細胞の浸潤(血管浸潤・リンパ管浸潤)、がんの細胞の悪性度などから判断して、ホルモン療法、化学療法、分子標的療法のいずれかの薬物療法が行われます。
HER2(ハーツ)タイプ 、 トリプルネガティブなどの サブタイプ の乳がんに対しては、まず薬物療法から行い、その後手術をすることが増えています。
リンパ節への転移をピンポイントで調べる検査「センチネルリンパ節生検」を行う場合は手術中に行います。
手術後に行われる病理検査の結果、 乳房内にがんが残っている可能性を指摘されることがまれに(数%)あります 。その場合は、再度手術を行い、追加切除や全摘が行われることがあります。
乳房温存手術後 の放射線治療について
部分切除後の乳房には、目に見えないレベルのがん細胞が残る可能性があり、そこからの再発を防ぎ、生存率を改善することが明らかになっているため、放射線を当てます。通常は温存した乳房全体に、1回2グレイ(グレイは放射線量の単位)ずつ、週5回(月曜日から金曜日の連日)×5週間の25回、合計50グレイを照射します 。
最近は、放射線治療の1回の照射を増やし、治療回数を減らす「寡分割(かぶんかつ)照射 」も行われるようになっています 。通常の放射線治療が2グレイ×25回(合計50グレイ)であるのに対し 、寡分割照射の場合は、2.66グレイ×16回(合計42.56グレイ)と、治療期間が約3分の2に短縮され、通院の負担が軽減されます 。
寡分割照射が適応となるのは50歳以上、乳房温存手術で、がんの大きさが2cm以下、リンパ節転移なし、全身化学療法(抗がん薬治療)を行っていない場合です。
温存か全摘か
2006年頃までは乳房温存の割合が徐々に増え、一時は日本の乳がん手術の6割が乳房温存でした。
近年は乳房再建の普及などにより、全摘が増え、乳房温存は半分から半分弱となっています。乳房温存が可能な場合でも、大きめの切除で乳房の変形が予想されるケースでは、全摘して乳房再建を行った方が形の良い乳房になることがあります。再建という選択肢が増えたことで、自分の希望に沿った手術が選べるようになったのです。
監修:相良 安昭(社会医療法人博愛会 相良病院 院長)