手術後の慢性的な痛み

手術後直後の痛みがなくなり、しばらくしてから、ピリピリ、チクチクする痛みが現れると、「もしかして再発?」と不安が募るかもしれませんが、じつはこの痛みは回復の兆しです。乳腺を全摘すると神経が傷つくため次のような経過をたどります。

疼痛期

術後3日から1週間は、傷口がズキズキします。痛み止めが必要です。

麻痺期 

痛みが失せると、乳房の皮膚や上腕の内側、ときには背中のあたりまで、感覚が麻痺して自分の皮膚ではないように感じます。

回復期

術後しばらくすると、乳腺を切除したところと周囲の脂肪を残したところとの境目から神経が再生してきます。再生した神経は過敏なので、ちょっと触れてもピリピリ、チクチク、またはむず痒い感じがします。正座をして足の感覚が麻痺した後に足を伸ばすと、感覚が戻るために、ビリビリと痺れて不快に感じるのと一緒です。これを「回復徴候」と言います。
術後数か月で現れる人もいれば、数年経って痛み出す人もいます。痛み止めの必要はありません。

完治期 

神経の麻痺した範囲はだんだん狭くなり、ついに感覚が戻ります。ただし、神経を根元から切っているときは完全には戻りません。針を刺せば痛みは感じますが、冷たさは感じにくいでしょう。

乳房切除後疼痛症候群(PMPS)

厚生労働省によるアンケートでは、乳がん手術を経験した再発のない患者さんの約21%が、「乳がん手術後の慢性的な痛みに悩んでいる」と回答しています。

この症状は「乳房切除後疼痛症候群(PMPS)」と呼ばれ、手術した側の乳房やわきの下、上腕の内側にヒリヒリ、チリチリした痛みを感じるのが特徴です。ひどくなると、下着や衣服が擦れただけで痛みが増すので、ブラジャーがつけられないなど、日常生活に支障を来す場合もあります。

PMPSの痛みについては、一般的な鎮痛薬よりも、抗うつ薬や抗けいれん薬が推奨されています。(国際疼痛学会による神経障害性疼痛に対する治療指針)また、リハビリや認知行動療法などを組み合わせることも有効です。手術後、長引く痛みを感じる場合は、主治医をはじめ、麻酔科医やペインクリニックで相談することをお勧めします。

 

監修:相良 安昭(社会医療法人博愛会 相良病院 院長)